酷いくらいに、動揺が隠せなかった俺。
唖然と口を開けていると、リュックが俺に提案を出す。
「あのさ!『ルカ』に行けば、キミの事を知ってる人が居るかも知れないよ。
 一緒に連れてったげる。まっかせなさ〜い!」
「・・・・・『ルカ』?」
「うん、そだよ。皆にその事伝えてくるから、ちょっと待ってて」
それからリュックはちょっと詰まったように続けて話した。
「あと、ザナルカンドから来たなんて、他の人達には言わない方がいいよ。
 あそこはエボンの聖なる土地だから、怒る人居ると思うんだ。」
「・・・ん・・・・・・・」
俺はあまり興味なさそうに頷くと、リュックはそれを確認したかのように
ドアの向こうへ小走りに去っていった。

それからリュックの姿を見るのは、もうちょい後の事、だよな。


俺は船の壁に腰掛けて、下を向く。地面が間近に見える。
・・・・・『ルカ』?『エボン』?
何のこってすか。って、感じだった。
ただ今の俺に判る事。それはザナルカンドとこの世界が、
繋がっているという事だけ。
「判んねーっつーの!!!」俺は怒って、船の壁を蹴ってしまった。

・・・すると、急に大きい振動が来る。「おわ?!」
船が斜めになって、自分の身体が転がっていく。
幸い、船の手すりに引っ掛かって助かった。

アルベドの人達がドアから出て来て、空を見上げると血相を変えて
「『シン』?!『シン』ダチサボー!!!」と叫ぶ。
俺もそれにつられて、空を見上げると・・・
黒い巨大な物体が自分の視界の中に入ってきた。
あれが、『シン』・・・・・・・?
巨大な背ビレのようなものが、海面に突き出ている。
それが段々、船に向かって近づいてきた。
急激に波が船に押し寄せてきて、俺の身体は真っ黒い海へ放り出される。
「うわあぁぁぁぁっっっ!!!!!」
落ちる寸前、リュックやアルベド族の顔が見えた。
俺は急に、心細くなった。



水の音が聴こえる。口の中に、しょっぱい水の味が伝わってくる。・・・・・海?
「ぷっはぁっっ!!!!!」
ザバッと音をたてて、俺は海の中から顔を出す。
周りを見渡すと、青い空、青い海。今度は、どこだよ・・・・
俺が呆れていると、ぼこっと後頭部に何かがぶつかって来た。
青と白の球体。これは・・・・・「ブリッツボール!!!」
そのブリッツボールが飛んできた方向へと目を遣る。
すると、「お〜〜〜〜い!大丈夫かーーーーーっ?」という声が聞こえた。
目を凝らして、浜辺を見つめる。
「ひとーーーーーーーーっっっっっ!!!!!」
言葉が通じる。ヒトが沢山居る。ブリッツボールがある!
俺は淡い期待を胸に、手に持っていたブリッツボールを頭上に上げて、
ジャンプする。空中でボールを蹴り飛ばし、その嬉しさをあらわにした。

そのボールは海を切り抜け、浜辺に居た人達をも通り抜けた。
「すっげぇぇぇ・・・・・っ」浜辺の人達は大騒ぎだった。



俺が海を泳いで、浜辺へ到着すると・・・案の定、質問攻めに遭った。
「シロウトじゃないよな。何処のチームだ?」
「ザナルカンド・エイブス!・・・・・あ・・・っと」
自信有りげに答えた後に、とっさに隠すようにして口篭もる。
リュックが言ってた事を思い出したんだ。ザナルカンドから来たなんて、
他の人には言っちゃいけない。そう言われてたんだったっけ。
「お前・・・今なんつった?」怪訝そうな顔だ。
「あ・・・・・いやいや、今のナシ!あのさ、俺・・・・
 『シン』に近づきすぎて頭グルグルなんだよ。」
「『シン』に近づいたのか・・・でもま、こうやって生きてるんだ。
 エボンのたまものだな。」
そう言った男は、次に自己紹介を始めた。
「俺はワッカ。後ろに居る奴等は、チームの仲間だ。
 ビサイド・オーラカっつってな。俺はその選手兼、コーチだよ。」
「ん。宜しくッス!」
「んじゃ、俺について来な。村を案内してやっから」


・・・・ワッカはいいヤツだと思った。だから、聞いてみたくなったんだ。

「あ・・・のさ。ザナルカンドって1000年前に『シン』にやられて
 滅んだ・・・・・で、いいんだよな?」
ワッカは少し思い悩んだような顔をして、話した。
「機械仕掛けの都市、ザナルカンド。機械に甘えてた人間のせいで、
 『シン』が現れて、街をぶっ壊しちまったんだ。そのせいで
 今の俺等がどんだけ苦労してるかと思うと、なぁ。
・・・ま、暗い話はこんぐらいにしとこーぜ。」
と、ワッカが話を終わらせると、森の奥へ入って行った。

俺は海を見つめ直し、考えた。
俺がここへ来るきっかけになったのは『シン』。だから、
もう1度『シン』に遭えば・・・・俺のザナルカンドに帰れるかもしれない。
もう帰れないとか、そういう考えはやめよう。
出来るだけ考えないようにするっつーのも、難しいけど。
でもちょっとだけ、楽になったような気がしたんだ。


「おーい!こっちだぞ!!!」
ワッカが呼んでる。俺はその一筋の希望を胸に、ワッカの元へ向かった。