勢いに乗って扉の向こうへと走り出す俺。無我夢中、ってヤツ。
母さんのあの言葉を思い出したから。
『死んじゃったら嫌いだって事も伝えられない』
その言葉を思い出す度に、胸の奥がズキズキするようだった。
扉の中へ入ると、そこは薄暗い部屋だった。
光る石を目の前に発見したので取ってみると、
何だか不思議なやる気に満ちてきた。この部屋の出口なんて知らないし、
ここからどうやって先に進むのも判らないのに・・・・・何だか誰かに
見守られているような、そんな感じでいっぱいになった。
その光る石・ビサイドのスフィアを手中に取った俺は、
どんどん先へ先へと進んでいった。
この祭壇・・・・・怪しいッス。と心の中で思った俺は、早速前へと押してみる。
すると後ろの方から声が掛かってきた。
「なーにアツくなってんだ?」同時に右肩をドン、と押される。
びっくりして後ろに振り返ると、そこにはワッカが立っていた。
「ここはな、召喚士とガード以外入っちゃいけねぇ場所なんだよ」
・・・と言いつつも、俺を外へ出す気はなさそうだ。
「じゃあ、アンタは?」と聞き返すと、
「・・・俺はガードだからな。それより、本当だったら掟破りなんだぞお前。
今回はもう仕方ねぇけどなぁ」頭を掻きながらワッカは前へと進む。
ふと前を見ると扉があるのが判った。ワッカは、
「ここは控えの間っつってな、ガードが祈りを捧げてる召喚士を
待ってる処なんだ。今は・・・ん〜、1人は何考えてるか判らんヤツと、
もう1人は怒りっぽいヤツが居るんだよなぁ」
「ふーん・・・」
「ま、ここまで来ちまったらしょうがねぇよな。おし、行くぞ!」
そうして控えの間への扉を開けた。
そこに立っていたのは黒い衣装の女と、青い獣人。
俺にとって、周りの火も、その人達も異様な光景に見えていた。
すると黒い衣装の女が「ここはあたし達に任せておきなさいって言ったでしょ!」
とワッカに怒鳴りつけた。ワッカが「ほーら、やっぱ怒っただろ?」と
俺に吹っ掛けてくる。黒い衣装の女は俺に気付いたのか、
怪訝そうな眼差しで「あんた・・・・・・・誰?」と聞いてきた。
今。まさに自己紹介をしようと口を開けた途端、控えの間の向こうから
大きい扉が開いた。自然と、皆の視線がそっちに向かう。
大きい扉から出てきたのは、それとは対照的な小さい女の子。
よろよろっと弱々しくこちらへ向かってくるのに対して、
俺は少しの間身体が動かなかった。
女の子の身に纏っているものはまるで巫女さんのような格好で、
階段を下りる度にシャラシャラと装飾具の音が鳴っていた。
余程疲れていたのか、階段を踏み外し前に倒れてしまいそうになった所を
青い獣人が咄嗟に助ける。そして女の子は支えられながらも立ち上がり、
髪の毛と汗を拭いながら、その場の皆に言った。
「できました!私、召喚士になれました!」
口を開けたまま、俺は外へ出る。そりゃーびっくりしたさ。
召喚士はオジサンかと思ってたからさ。
「皆さん、召喚士様の誕生を心から祝福しましょう!」
寺院の僧官は言った。そして俺に「掟破りの事はその次に考える事にします」
とイヤミのように言ってきた。俺は少し悔しかったけど
まぁいっか、と自分で自分を納得させた。
寺院を出ると、広場に村の人々が沢山集まっていた。
「おーい、こっちこっち」と俺を呼ぶワッカの声がしたので、急いで
駆け寄・・・る前に、ワッカに首根っこを捕らえられてしまった。
「な、何だよぉ?」うんざりしたような声で俺は言う。
「いいから見ててみ。・・・おいユウナ、いいぞ!」
ユウナ?・・・さっきの・・女の子?
「はいっ!」ユウナは元気な声を発したかと思うと、杖を取り出し、
両手を広げて空へと祈るような格好をとった。
すると空の彼方から何かが飛んでくる音がする。
一瞬だった。翼を持った巨大な生物がユウナという女の子の前に
姿を現したのだった。俺はまたまた口をポカンと開け、
その巨大な生き物・召喚獣とユウナとのコミュニケーションを見ていた。
そんな光景、今まで見た事もなかったし・・・それに、今後見る機会も
ないと思っていたからだ。これが召喚士の業なんだ、と
納得させられるを得なかった。
召喚獣ヴァルファーレは来たときと同じように、一瞬にして姿を消していった。
村の人々が一斉にユウナへ集まり、話を聞いていた。
俺は正直言って・・・召喚獣が怖かったけど。
この日の夜だったよな。ユウナと初めて会話したのは。