
沈丁花
「くどい」
「は?」
冬も終わりかけてきた2月。
風邪っぴきの体に鞭を打って書いた、私の作文。
それをいきなり『くどい』と言われては、そりゃ唖然とする他ないだろう。
「お前の作文は小説には向いてるかもしんねぇよ。
だけどこれは簡潔にまとめねーといけねんだ。
遠回しに書くだけ無駄なんだよ」
「・・・・・・はぁ」
くどい、と言われても・・・自分はそういう文章しか書けないんです。
なんて言ったら、いくら先生でも怒るだろう。
本当のこと言えないって、つらいな。
受験。
人生の分岐点、とかって格好良く先生は言うけど、本当は戦争だよ。
媚びを売るような作文を書かされて。面接をして。
一体何をしようというのだろう、私は。
自分が周りに流されているような感じがしてすごく怖くなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もうすぐ春だ。
春一番の風を感じると、くすぐったい感じがする。
それに、春のにおいがする。
春のにおいを感じると、いつも思い出すことがある。
それは受験でピリピリしてるから現実逃避をしたいのか、
それとも春の風がそうさせるのか。
それは小さい頃の記憶。友達と遊んで家に帰ってくると、玄関先で甘い香りがするのだ。
幼心に祖母に尋ねると、その香りは「ジンチョウゲ」という花の匂いらしい。
決して大きくない葉を一生懸命広げ、小さな白い花を咲かせていた。
祖母に促されるままに窓を開けると、玄関でかいだときよりも、
更に強く、けれども優しい香りが漂ってきた。
花の香りをかいだだけで『落ち着く』と思ったのは、生まれて初めてのことだった。
春が来るたびに、私はこのことを思い出す。
そして現実に戻った途端、何だか無性に悲しくなるんだ。
沈丁花を教えてくれた祖母も、今はもういない。
そのせいだからだろうか。
春は怖い。
・・・と思うようになったのは。
風が、空気が、全てが新しくなってしまって、
今までの何もかもの出来事が全て無くなってしまう気がして。
でも、時間というものは残酷で・・・・・
時が経つと、どんなに深い悲しみも憤りも癒えてしまうものなのだ。
そういう自分が怖いと思うときもあるけど、
ふと沈丁花のつぼみを見て、「ああ、花を咲かせようと頑張ってるんだ」
と微笑ましい気持ちに変わる。
私にとって沈丁花がそうであるように、
全ての人にも自分を支えてくれる、素直な気持ちにさせてくれる存在が
あってくれたらと思う、春の日頃。

受験シーズン、ということで。
ちょびっとノンフィクションです。
(大分前の)過去に思ってたこととか、思い出して書いてみました。
ちなみに沈丁花の花言葉は「栄光・不滅」だそうです。
・・・・・・・偶然か?