トウバツタイ宿舎。水色の、テントのような建物。
その中へ入ると、椅子に腰掛けているルッツとガッタに会った。
「お、海から来た人だな」
声を掛けようとしたら、向こうの方から掛かってきた。
「まだシンの毒気が続いてるんだろ?無茶すんなよ。」
ガッタが言った。・・・スピラの人なら、普通に聞き流すんだろうけど・・・
シンの毒気って・・・・・何?って聞きたかった。
ワッカから大体説明してもらったけど、まだ良く判らなかったんだ。
そういう考え事をしてるうちにルッツが聞いてきた。
「おい、まだシンはこの近くにいるのか?」
俺は首を横に振る。「・・・・そうか。この近くにシンが来てるなら、
大変な事になるからな。俺等、討伐隊も」
「あのさぁ・・・討伐隊って、何?」ついに口が開いてしまった俺。
ルッツとガッタは顔を見合わせ、由々しき事態に呆然とする。
「せ、先輩。毒気ってこんなに酷いモンなんですか?」
ガッタが先輩のルッツに聞きたてる。俺、そんな珍しいのかよ・・・
「いや・・これは重症だな。おいガッタ、説明してやれ」
そう言われたガッタは椅子から立ち、敬礼の格好をして討伐隊の
雰囲気を漂わせながら説明を始めた。
討伐隊に歴史がある事、討伐隊の目的、などなど。
俺はあんま興味なかったけど・・・ガッタの真剣な目を視て思った。
皆は本当に、心からシンに居なくなって欲しいって願ってる。
俺は・・・・・・・・
「シンはな、俺達には倒せない。せいぜいシンの針路を変えたり、
人々を守る事ぐらいしか出来ないんだ。シンを倒せるのは、召喚士だけだ。」
「・・・召喚士?」俺は本当に判りません、という顔で聞く。
「お前、寺院に行って祈りを捧げてこいよ。召喚士様もあそこに居るぞ」
そうガッタに言われ、俺はしぶしぶ討伐隊宿舎を出た。
・・・・・お?何だかいい香りが・・・・
村をブラついていると、腹減らしの俺は匂いのする家を発見した。
そこへすぐさま足を運ぶ。相当ヤバかったしな、俺の腹。
家の中へ入ると、ますますいい香りが漂っていた。
その傍らにはワッカ。・・・・そうか、ワッカが俺の為にメシ作っててくれたのか。
とゆー事はここはワッカの、家?
「悪ぃな、まだメシ出来てねぇんだ。その間に寺院の方へ行ってみたら
どうだ?祈りを捧げれば毒気も治るかもしんねぇし。」
「ん゛〜・・・・・・・・」俺は少し頷けない気持ちで、寺院の方向へと向かった。
寺院。っつっても、俺には全く身に覚えのない建物だ。
白い壁、それに・・・僧侶っぽい人も居る。
寺院の中へ俺は入っていった。
全体的にオレンジっぽい壁。像も何体か置いてあって、なんつーか・・・
本当に俺の知らない世界、だった。
それを改めて思い知らされたのが、このビサイド寺院での事だった。
俺が像の近くへ寄ってみると僧侶が話しかけてくる。
「大召喚士ブラスカ様の御像でございます。この寺院にも、
この間やっと届いたのでありますよ。」
「大召喚士・・?何スか、それ?」
周りの空気が変わった。ザワザワと落ち着かない感じがする。
僧侶も俺の顔をまじまじと見つめている。これはひょっとして・・・・・
「あ、あの俺・・・シンの毒気に当たっちゃって・・・・・」
上目使いで、頭を掻きながら話す。
そんな言い訳を何度もする自分が、何だか悲しかった。
「おお、そうですか・・・・・しかしこうやって今、生きているのです。
エボンのたまものですな」と、深々とお辞儀をさせられてしまった。
気を余計悪くしてしまうような気がして、俺は寺院から出る。
そろそろワッカもメシ作り終わったかな?と思ったら、
まだまだの様子。俺は一瞬ガッカリしたけど、
「メシ作ってる間にそこで寝てろよ。結構疲れてんだろ?」と
勧められた。俺はベッドを見つけると、急に眠気が
襲ってきたのですぐに寝てしまった。
「ワッカさん!従召様は・・・・・」
「ああ、多分大丈夫だと思いますよ。アイツの事ですし」
「しかし、もうかれこれ1日も・・・・」
・・・・・ワッカ?これ、夢・・・?
「しかし、もうかれこれ・・・・」
「いえ、まだ諦めません。ここで待ってます」
母さん?そうか、やっぱこれ夢だよ。母さんが居る訳ない。
「アイツなんかしんじゃえばいいんだ!アイツなんかだいきらいだ!」
ははっ、小さい俺も出てる。
「・・・・そんなに・・・そんなにお父さんが嫌い?」
「・・・・・・・・」
「死んじゃったら、嫌いだって事も伝えられないのよ・・・?」
「・・・・・・・・うわッ?!」飛び起きる俺。
夢・・・・久々に嫌な夢だった。母さん、泣いてた・・・?
それにしても、村の雰囲気がおかしい。ワッカも居ない。
皆、寺院に集まってるみたいだ・・・俺は、急ぎ足で寺院に向かった。
寺院の真ん中でワッカと僧侶が何やら話をしている。
「何があったんだ?」俺は思わず聞く。周りの様子が尋常じゃなかったから。
「召喚士が・・・いや、正確にはまだ従召喚士だが。試練から帰って来ないんだ」
とワッカが重たそうな扉へ指を指す。
「どのくらい帰って来てないんだ?」
「・・・・・1日。」俺はそれを聞いたとき、正に度肝を抜かれた様だった。
「1日も?!なんで助けないんだよっ?!」
「掟、だからな。召喚士にとってもその方がいいんだ」
「・・・っ。何言ってんだよ!死んじまったらおしまいだろ?!」
俺は階段を駆け上がり、あの重たそうな扉を開いて『召喚士』を助けようとした。
止めようとするワッカ達を振り切って。
・・・・あの時はまだ、自分のやってる事がどれ程大変な事か。
理解らなかったんだ。