古の名言集
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呻吟語
- 自己を高める -
1.欲望の抵抗
 欲望を抑えるのは、水の流れに逆らって舟を引くようなものだ。少しでも力を緩めれば下流に引き戻される。
 防欲如挽逆水之舟。纔歇力便下流。


2.童心を棄てる
 童心は人格を形成する上で最大の病気である。童心を棄てることができれば、りっぱな君子である。ある人が童心とは何かと聞くので答えた。執念の心、驕(おご)り見下す心、贅沢を好む心、あせりの心、浮ついた心、名誉を欲しがる心、これらはみな童心であると。
 童心最是作人一大病。只脱了童心、便是大人君子。或問之。曰、凡炎熱念、驕矜念、華美念、欲速念、浮薄念、声名念、皆童心也。


3.無欲の境地
 儒教、道教、仏教の教えは、総じて【静】の一字で説明できる。下積みを積む理由はすべて欲望をおさえるためである。最終的に行き着く先は無欲である。これがすなわち三教の共通点である。
 三氏伝心要法、総之不離一静字。下手処皆是制欲。帰宿処都是無欲。是則同。


4.忠告の価値
 私の過ちを指摘してくる人が、いままで過ちのない人だとは限らない。欲をかいて過ちのない人の忠告を期待していたのでは、人生が終わるまで自分の過ちを聞くことはできない。私は、私の過ちを攻められたことで生じる利益を感じたいのである。相手に過ちがあろうと無かろうと気にしている暇はない。
 攻我之過者、未必皆無過之人也。苟求無過之人攻我、則修身不得聞過矣。我当感其攻我之益而已。彼有過無過。何暇計哉。


5.在るか無いか
 智愚は他でもない、本を読むか読まないかに在る。禍福は他でもない、善行を積むか積まないかに在る。貧富は他でもない、努力するかしないかに在る。悪口を言われるか褒(ほ)められるかは他でもない、思いやりを示すか怒りをぶちまけるかに在る。
 凡智愚無他、在読書与不読書。禍福無他、在為善与不為善。貧富無他、在勤倹与不勤倹。毀誉無他、在仁怒与不仁怒。


6.人生の大罪
 人の一生の中でも過ぎたる大罪は、自分を肯定し、自分を高く評価することである。
 人一生大罪過、只在自是自私四字。


7.目標を持つ
 貧しいことは恥ずかしいことではない。恥ずかしいのは貧しくして志のないことである。身分が低いからといって憎むことはない。憎いのは身分が低くて能力のないことである。老いたことを嘆くことはない。嘆くとしたら、老いてなお目的もなく生きることである。死を悲しむことはない。悲しいのは死んだあと誰も話題にしないことである。
 貧不足羞。可羞是貧而無志。賤不足悪。可悪是賤而無能。老不足嘆。可嘆是老而虚生。死不足悲。可悲是死而無聞。


8.おろそかにしない
 徳を身につけようと思うなら、何事もおろそかにしてはならない。おろそかにしないためには、まず煩わしさに耐えなければならない。今の人は、浮ついていて煩わしさに耐えられず、故に一切その場限りの間に合わせで済ませ、大きな防波堤が壊れても顧みず、大義を棄てて煩わしいことはしなくなった。その始まりは、皆ちょっとした面倒くさいという気持ちが起因である。
 進徳莫如不苟。不苟先要箇耐煩。今人只為有躁心而不耐煩、故一切苟且、卒至破大防而不顧、棄大義而不為。其始皆起於一念之苟也。


9.才能の詐欺師
 才能を見せることこそ士君子の大きな病気である。それでも才能を飾るよりも甚だしいものはない。見せるとはその有する所を隠さないことである。飾るとは無いものまで有るようにみせることである。
 露才是士君子大病痛。尤莫甚於飾才。露者不蔵其所有也。飾者虚剽其所無也。


10.未熟の現れ
 小人にも良い点がある。しかし、その人を憎めば、その事も欠点としてしまう。君子にも分不相応な思いあがりがある。その人を好めば、その欠点をとりつくろう。すべて未熟が原因なのだ。
 小人亦有好事。悪其人則並疵其事。君子亦有過差。好其人則並飾其非。皆偏也。