古の名言集
メニュー
呻吟語
- リーダーの心得 -
1.気力の維持
 君子は気力を維持することが必要だ。気力が一度衰えると、何をやっても中途半端に終わる。孔子の弟子の冉有は、この気力が足らなかったのだ。
 士君子要養心気。心気一衰、天下万事、分毫做不得。冉有只是箇心気不足。


2.他人のミスは蜜の味
 たった一度のことで不善の汚名が付けられる。あとで諸々の善行を積んでも、覆うことはできない。しかもたった一度の不善が伝わるのだ。君子の行動は慎重でなければならない。
 不善之名、毎成於一事。後有諸長、不能掩也。而惟一不善伝。君子之動、不可慎与。


3.四つの真
 名士や君子は四つの【真】を求める。それは、真心、真口、真耳、真眼である。真心とは、誤った思いから生じる執念がないこと。真口とは、無駄な言葉がないこと。真耳とは、よこしまな声を聞かないこと。真眼とは、間違った道理を見ないこと。
 士君子只求四真。真心、真口、真耳、真眼。真心無妄念。真口無雑語。真耳無邪聞。真眼無錯識。


4.墓穴を掘る
 君子は、必要なことは知っているが、余計なことは知らない。必要なことも知らないのは【愚】である。余計なことまで知れば穴をあける。
 君子知其可知、不知其不可知。不知其可知則愚、知其不可知即鑿。


5.余裕は禁物
 天下の事業を取り仕切るには、期限があるからといって自分から余裕を与えてはならない。事業には予測できないことがあり、時には補給が間に合わないこともある。常に期限に余裕があれば、多少の無理も利くのである。
 幹天下之事、無以期限自寛。事有不測、時有不給。常有余於期限之内、有多少受用処。


6.窮鼠猫をかむ
 道理は細部まで論じなければならない。事例は非常によく当てはめて論じなければならない。人を論じるなら二三分はあやふやにすべきである。もし人の情けの中心まで切り込めば、人は堪えることが難しい。故に君子は人の情けを尽くさず、人の過ちを尽くさず、ただ禍(わざわい)から遠ざかるだけでなく、相手の逃げ道を残しておき、相手に過ちを改めるチャンスを与え、相手の体面をとりつくろう余地を与える。これこそ天地教養の心づかいである。
 論理要精詳。論事要凱切。論人須帯二三分渾厚。若切中人情、人必難堪。故君子不尽人之情、不尽人之過、非直遠過、亦以留人掩飾之路、触人悔悟之機、養人体面之余。亦天地涵養之気也。


7.納得を促す
 聖人は、はなはだ難しいことは人に強制しない。ただ他人の一点の自然の納得を促(うなが)すのである。
 聖人不強人以太難。只是撥転他一点自然底肯心。


8.教育が先
 他人の立場や心情を察するには六つの条件がある。見識が不十分だったのではないのか。見分が的外(まとはず)れだったのではないか。力量が不足していたのではないか。悩み事があったのではないか。気の緩みがあったのではないか。意見が少し違っていたのではないか。これらの判断を先にしたうえで、それでも命令に従わず、説教しても改心しなければ、罰を与える。このような理由で、君子は人に教えてから責任を与え、面目が保てるようにして人を怒る。
 恕人有六。或彼識見有不到処。或彼聴聞有未真処。或彼心事有所苦処。或彼精神有所忽処。或彼微意有所在処。先此六恕、而命之不従、教之不改、然後可罪也已。是以君子教人而後責人、体人而後怒人。


9.不善の積み重ね
 金持ちの子は、一日で貧乏になるのではない。日々減らし、月々削り、何でもない日に損をして、ある朝に貧乏になっていたのだ。その積み重ねを咎(とが)めずに、その朝を咎めるのは愚かである。だから、君子は小さな損でも重大に考え、些細な行為も慎み、ごく小さな破(やぶ)れを防ぐのである。
 千金之子、非一日而貧也。日?月削、損於平日、而貧於一旦。不咎其積、而咎其一旦。愚也。是故、君子重小損、矜細行、防微敝。


10.能力の個人差
 ラクダは百鈞(重さの単位)を背負い。アリは一粒を背負う。おのおのが力を尽くしている。象は数石の水を飲み、ネズミは一勺の水を飲む。おのおのがのどの渇きをいやしているだけだ。君子の人の用い方は、その効果が同じであることを必要とせず、おのおのの長所を引き出しているだけである。
 駝負百鈞、蟻負一粒。各尽其力也。象飲数石、?飲一勺。各充其量也。君子之用人、不必其効之同、各尽所長而已。