空力の基礎
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 走行するマシンは、圧力抗力、摩擦抗力、誘導抗力という空気の抵抗を受けます。この抵抗を味方につけてダウンフォースを発生させようというのがF1における空力(空気力学)です。より少ない空気抵抗で、より多くのダウンフォースを発生させるために技術者たちは苦悩しています。
空気抵抗
圧力抗力 マシン前後の圧力差による抗力
摩擦抗力 マシン表面の摩擦による抗力
誘導抗力 ダウンフォースと同時に発生する抗力
【 MENU 】
1.ノーズコーン
2.モノコック
3.サイドポンツーン
4.カウル
5.ロールフープウイング
6.フロントウイング
7.ディフューザー
8.アンダーフロア
9.サスペンション
10.リアウイング
11.ミラー

1.ノーズコーン
 ノーズコーンの先端位置を高く設定すればグラウンドエフェクトが向上する傾向にありますが、空気抵抗が増えるという欠点もあります。
 ノーズコーンの先端を細くすれば空気抵抗は減少しまが、あまり細くすると強度不足に陥ります。そのため、ある程度の太さが必要です。

*グラウンドエフェクト…走行中の車体底面にはベンチュリー効果によって負圧が生じます。この負圧は、ダウンフォースと同じ効果があります。

2.モノコック
 モノコック(応力外皮)にはドライバーや燃料タンクが収められるため、非常に頑丈に製造されています。
 最近のF1マシンは、ノーズコーンの先端が持ち上げられたハイノーズ型で設計されています。ハイノーズを実現するためにモノコックは複雑な構造で製造されています。
 モノコックという言葉は、ギリシャ語で一つのという意味の「mono」と、フランス語で貝殻という意味の「coque」を合わせた造語です。一枚の薄い板は弱くても、折曲げたり、箱状にすれば強くなるという考えから生まれた発想がモノコックです。

3.サイドポンツーン
 サイドポンツーン(サイドポッド)には、エンジンを冷却するためのラジエターが収められています。サイドポンツーンの形状は、冷却効率や空気抵抗、ダウンフォースなどにも影響を与えます。
 サイドポッドの外側がえぐれたような形状をスキャロップドポンツーンといいます。空気をマシン表面から剥離させずマシン後方へ送ることを目的とした形状です。

4.カウル
 カウルは、エンジンやラジエターを覆っています。マシン後部の空力性能に大きな影響を及ぼします。

5.ロールフープウイング
 ロールフープウイングは厚みが少なく、ダウンフォースよりも後方への空気の流れを整えるために使われていたようです。コースに応じて付けたり、付けなかったり、大きさや厚みを変えたりしていました。

 
*ロールフープウイングは、2009年から禁止されました。

6.フロントウイング
 フロントウイングは、ウイングとフラップとエンドプレートで構成されています。
 ウイングの後ろに配置されているのがフラップで、角度を変えることができます。角度を変えることでダウンフォースの発生量をコントロールします。当然、ダウンフォースを増やせば空気抵抗も増えます。
 エンドプレートは、ウイングとフラップを挟むように配置されています。エンドプレートの形状はダウンフォースや後方への空気の流れに影響をあたえます。
 ウイングに空気が流れると、ダウンフォースと共に誘導抗力も発生します。つまり、ウイングは大きな空気抵抗になっているのです。

7.ディフューザー
 ディフューザーは、マシン底面の空気を効率よく流す(引き抜く)ためのパーツです。車体底面の空気を効率よく引き抜くと、より多くのダウンフォースが発生します。
 マシン全体のダウンフォースの約半分はマシン底面で発生させており、ディフューザーのデザインは非常に重要です。

8.アンダーフロア
(フラットボトム)
 ベルヌーイの定理に従えば、ウイングを用いなくてもダウンフォースを発生させることが可能です。ベルヌーイの定理とは、「狭い空間に流体を流すと、流速が上がり負圧が生じる」というものです。
 アンダーフロアと路面の間に生じる空間に空気が流れると負圧が生じます。この負圧がマシンを路面に押しつける力として作用します。この力をグラウンドエフェクトといいます。

9.サスペンション
 サスペンションに利用されるアームやロッドも空気力学を意識してウイングのような断面形状を採用しています。

10.リアウイング
 リアウイングは、角度を変えることができるフラップが上部に配置され、その下に角度が固定されているウィングが一枚配置されています。また、それらを挟むようにエンドプレートが取り付けられています。
 エンドプレートの形状によっても、空気抵抗やダウンフォースが変化します。エンドプレートのデザインを間違えると空気抵抗だけが増え、ダウンフォースが減るということにもなります。

11.ミラー
 ミラーは、レギュレーションで最低寸法が定められています。各チームとも空気抵抗に配慮してギリギリのサイズでデザインしていると言われています。
 ミラーは取り付けられているだけでなく、きちんと後方確認ができないと車検をパスすることができません。
 後方の視認性に関してもレギュレーションで細かく規定されています。
アイデア編

ステップドボトム
 1995年、ステップドボトムの義務化でマシン底面の空間が広くなり、ダウンフォースが減りました。ベンチュリー効果は狭い空間に流体を流すことで効果が上がります。つまり、空間を広くすれば効果が低下するのです。
 FIA(国際自動車連盟)は、安全性向上のためにダウンフォースの削減に取り組み、ステップド・ボトムを義務付けました。
 アンダーフロアの中央部分に5cmの段差を設け、その底面に厚さ1cmのベニヤ板を取り付けたものがステップドボトム(stepped bottom)です。ベニヤ板が規定以上に擦り減っていると罰則を受けます。
ダブル・デッカー・ディフューザー
 車体底面の開口部からディフューザー上部の開口部へ空気を流すことで、ダウンフォースの増大を狙っています。2009年に登場し、その年限りで禁止されました。レギュレーションのグレーゾーンを突いたアイデアだったのです。
 このディフューザーを開幕戦から使用したのは、ウイリアムズ、トヨタ、ブラウンGPの3チーム。合法性が認められると他のチームもこぞって導入しました。遂には、3階建てのマルチディフューザーまで登場しました。
 見る角度によっては、ディフューザーの開口部から路面が見えたそうです。

*ちなみに、ロンドンを走る、赤い2階建てバスの通称は「ダブルデッカー」です。

.コークボトル・シェイプ
 コークボトル・シェイプというのは、コーラの瓶のように絞り込んだ形状のことです。
 カウルの後部を絞り込んだ形状(コークボトル・シェイプ)にすることでディフューザー上部に空気が流れるようになります。この空気の流れは、マシン底面を流れて来た空気を効率よく引き出してくれます。つまり、ダウンフォースが増えるのです。


エキゾーストブローン
ディフューザー
 エキゾーストブローンディフューザー(Exhaust-Blown Diffuser)というシステムは、高速で排出される排気ガスをディフューザーに流れる空気と合流させることでダウンフォースの増大を狙っています。
 リアタイヤ後方の負圧域に空気を送るケースも見られました。ドラッグの低減を図るのが狙いだったようです。

*エキゾーストブローンディフューザーは2012年から禁止されました。