『きみがいた頃・・・』


この交差点を曲がると、そう、そこには君の家。
あの日から車のハンドルを切る事もなかった・・・。
いつの頃からだろうか、
僕の記憶の中からその一角だけが忘れ去られていた。

あれから、何年たったのだろうか・・・。
想い出から逃げ出した僕は、引っ越しを重ねた。
そうする事で、全てを封印してしまいたかったのかも知れない。
それは余りにつらい出来事だったから・・・。

突然、僕の前からその姿を消した、君。
そんな君に何もする事の出来なかった、僕。

小さな花屋と公園を通り過ぎ、その2つ次の交差点から3件目の、
少し古びた家。
いつも、その前には白い車が停まっていた・・・。

ふと、何気ない気持ちでハンドルを切った、僕。
そして、僕の目に飛び込んで来たのは、
だいぶ変わってしまった、その街並み。
いつの間にか花屋も、喫茶店へと変わってしまっていた。

そして・・・。
交差点を通り過ぎ・・・。

記憶と言う名の、古びた一枚の写真。
まるで、その写真を重ね合わせたかのように、
そこだけ時間が止まっていた・・・。
更に年数を重ねた、少し古びた二階建ての、その家。
その前には相変わらず白い車が停まっている。
ただ、その当時は軽自動車ではなかったが・・・。

僕は、無意識のうちにアクセルを踏み込んでいた。
そうでもしないと、胸が苦しくてとても耐えられそうになかったのだ。

後悔・・・。
そう、僕は後悔していた。
やはり、ここへは来るべきではなかったのかも知れない。
ハンドルを左に切り、裏路地へと入る。
真っ直ぐ進むと、更に色々と想い出してしまいそうな気がしたのだ。

だが・・・。
その路地には、思いもかけない事態が待ち受けていた・・・。
そう、目の前に現れたのは、
忘れる筈もない、君・・・。
その目は、驚いたように、僕を見つめていた。

既に自分の気持ちに決着をつけたつもりの、僕。
そのまま、通り過ぎてしまえば、何の事はなかったのだろう。
しかし・・・。
気が付くと、僕は、道端に車を止めてしまっていた。

振り返り、じっと僕を見つめ続ける、君。
その口から、出た言葉は、
「道、間違えてない?」
そして、その目を見た瞬間、僕はこう答えていた。
「いや、間違えてないよ」
「じゃあ、どうして止まったりしたの?」
少し、はにかんだように、君は言った。
そう、その目は昔、君が見せてくれていたもの。

そして、僕は言った。
「ちょっと忘れ物があったもんでね。取りに来たんだ・・・」


Tomoi Fujisaki

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