『夕暮れ坂道、小物語〜第三章』


何の変哲もない、町の少し外れにある、とある坂道。
誰が名付けたのかは、定かではないが、
いつの間にかこの坂は、「想い出坂」 と呼ばれるようになっていた。

坂を登りきり、何気に振り返ると、遠くには海がきらめいて見える。
お世辞にも、広いとは言いがたい、その道幅。
めったに車すら通らない、その坂道。
まるで、そこだけ時間が止まっているかのように感じられる。
きっと、その両脇に立ち並ぶ、
古い造りの家々が、そう感じさせているのかも知れない。

「何だ坂、こんな坂、何だ坂、こんな坂」
一人の子供が、こんなかけ声を発しながら、
夕暮れ時の坂を、一生懸命上って行く。
その手の両側は、しっかりと大きな手に包まれている。

そう、それは、昔・・・。
少年と少女だった、あの、二人・・・。

今も何も変わらない、この坂道を、
少し変わってしまった二人と、一人の子供が、
ゆっくりとゆっくりと、この坂道を上って行く。

もう、決して、二人の時間 (とき) が止まる事はないだろう。
たとえ、あの一瞬の出来事を、振り返れなくなったとしても・・・。


ゆっくりと、着実に、時間 (とき) は流れ行く。
この坂道だけが、今もなお、
忘れかけた、全てを物語っている・・・。

そして、いつの日にか、
また、その時間 (とき) が繰り返されるだろう事を・・・。


Tomoi Fujisaki

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