先に森の中へ入って行ったワッカを、俺は慌てて追いかける。
追いついた、と思ったら・・・今度は止まって、谷の湖を覗き込んでいる。
「ワッカ?どうしたんだよ。何かあんのか?」
俺はそう聞くと、急に身体が浮いた気がした。でもそれは夢じゃなくて・・・
「のわあああああぁぁぁぁぁっ??!」
ドボン、と大きな音をたてて、湖に落ちてしまった。
「ぷっはァ!!!」上を見ると、ワッカの嬉しそうな顔。
お、落としやがったな・・・・・・俺はしかめっ面をしてみせると、
ワッカも勢い良く湖に飛び込んでみせた。
俺の近くに飛び込んだワッカは、顔を水面の上に出すと
「ちょいと頼みがあんだわ〜」と猫撫で声を出した。
「あんたのチームに入れってんだろぉ?」
俺は悟ったように話す。「う゛っ・・・・」と、ワッカは拙そうな顔をした。
それから、「もうすぐブリッツの大きな大会がある。
お前が出てくれれば、凄く助かるんだよ〜。それに大会が開かれる
場所で、お前の事を知ってるヤツが居るかも知れないだろ?」

俺はある考えが過ぎった。
『ブリッツボールだけが、ザナルカンドとこの世界・スピラを繋いでいる。』
・・・・・俺の考え、そんなに外れてなかったろ?


「いいよ。」考え出した答えが、それだった。
「ありがとよ〜!」ワッカは嬉しそうに泳いで、俺を追っ掛けていった。

岸に上がると、ワッカはこれまでのチームの成績について話し始めた。
「大会に出るはいいんだけど、いっつも初戦敗退しててなー。
俺も頑張ってんだけど・・・キツイ事あったりすると試合に集中出来ねぇでいんだわ。」
「甘いッスね。」俺が言うと、「厳しいッスね・・・」とワッカが応える。

「ほんでもって、俺もそろそろ引退しようかと思ってたトコなんだよ。
もう1つの仕事の方に専念してぇしな。」
「ふ〜ん・・・・・」
「いっつも目標は『精一杯頑張る!!!』なんだよな。」
俺はそれを聞いて、ピタッと動きを止めた。そして、
「目標は?って聞かれたら、優勝!!って答えろよッ」
と説教をぶちまかした。「ゆ、優勝・・・マジッスか・・・・・」ワッカは留まった。
「ああ。その為に俺をスカウトしたんだろ?」
「そうだな、頑張んねーと」


そういった男の会話っぽい事を話してると、後ろから大きな声が掛かってきた。
「おぉ〜い!!!!!」
2人。赤い毛色のゴツイ男と、黒い毛色の少し小柄な男。
「あんた、海から来たんだって?」ゴツイ男が俺に向けて話した。
「『シン』に近づいたんだろ?だったら少し休んできなよ。」
小柄な男が、続けて話した。
そしてワッカが「おぅ、ごくろーさん」と2人に気楽に話しかける。
するとその2人は村の方へ向かって走り去っていった。

「ルッツとガッタ。あの2人はな、討伐隊に入ってるんだ」
「・・・・・トウバツタイ?」俺は何だそれ、と言わんばかりの顔をした。
「お前、討伐隊の事も忘れちまったのかっ?」
ワッカが呆れたような声で話す。それを聞いた俺は、しょんぼりとすると
「・・・あ〜、判った判った。悪かったよ。討伐隊の事は、
ルッツとガッタにあとで直接聞いてみ。」
・・ワッカっていいヤツだ。その時、改めてそう思った。


そんなこんなで、前方に村が見え始めた。
俺には珍しい風景。テントの家とか、広場がある。
おまけに寺院っぽい建物もあった。
どこもこじんまりしていて・・・なんとなく落ち着ける感じがする。

「ここがビサイド村だ。ん〜・・あの水色の家が、討伐隊宿舎。
そこにルッツとガッタが居っから、話聞いてきてみ。
んで、1番向こうっ側にあんのがビサイド寺院。お前も祈り続ければ
『シン』の毒気も抜けっかもな。」
一通り説明を終えたワッカは、俺の顔を見て確認をとる。
すると俺の腹の虫が・・・「グーッ」と鳴ってしまった。
「あっはっは!な〜んだハラヘリかぁ?ちょっと待ってな、何か作ってやっから。」
ワッカはそう言って、自分の家らしき所へ急ぎ足で歩く。

・・・と途中で止まり俺に近寄ってきた。
「お前、まさかお祈りくらい覚えてんだろーな?」
・・・・・・お祈り?俺は勿論、知るよしもなく首を横に振った。
「ま、まぁ忘れてるだけだよな。おし、ちょっと見てな」
ワッカは右足を一歩軽く下げ、両腕を同時に横に広げる。そして、
胸の前で球体を描くように手を固め、右足を元に戻し、軽く礼をした。
「ほれ、やってみ?」・・・俺はちょっと戸惑ったが、たどたどしく
ワッカの真似をしてみせた。不器用だな、俺。
「ん・・・ま、上出来だな!それとメシ出来るまでちっと時間
掛かるからな、その辺ぶらぶらしてな。」

そう言われた俺は、さっきのルッツとガッタが居る「トウバツタイ宿舎」
ってトコに行く事にした。