「よっ・・・と」
「のわぁっ?!」
船員から双眼鏡を奪い取り、周りの景色を見渡す。
辺りが海・海・海。カモメが数羽飛んでいる。
見知らぬ土地へ向けての船の旅。俺は何もかもが
判らないことだらけで、なんにでも興味を示していた。
例えば・・・そう。召喚士、とか。

船の方へと双眼鏡を向け、ルールーにワッカにキマリに・・・ユウナ。
それぞれ顔ぶれを確認した後に船員に双眼鏡を奪い返されてしまった。
船内をブラブラしようと思った矢先、ワッカに声をかけられる。
「そういや、なーんも説明してなかったな。これからキーリカって島へ行く。
そこで船を乗り換えてルカへ向かう。んで、その前にユウナは寺院で
お祈りするから、オレはそのガードをする。寺院じゃビサイド・オーラカの
必勝祈願もするから、お前も来いよな。」
いっぺんに話されて困惑気味だった俺の後ろで、ルールーが水を差す。
「・・・・・中途半端な計画」
「ムダのない計画、だろ?」ワッカは俺に向かってそう言った。
「俺にフんなよぉ。」

頭を掻いたあとに船首の方へ目を遣ると、船員達がユウナの
噂話をしていたところに遭遇してしまう。
「すごい血筋の召喚士様らしいな」
「おう、あのブラスカ様のご息女だ。」
「すげぇ・・・・・・」

「・・・ブラスカ様の、娘?」話の中でついつい気になって口を挟んでしまった。
「ユウナの親って有名人なのか?」ワッカに聞いてみると、
「大召喚士ブラスカ様の娘だ。寺院に御聖像があったろ?10年前に
『シン』を倒した大召喚士ブラスカ様。ユウナは召喚士として、
最高の血を受け継いでるのさ。」それを聞いた俺は思わず、
「・・・・・・・可哀想だよな、親が有名だと」
「この人にそういう想像力を期待しても、無駄ね。」
ルールーの厳しい、判りやすい突っ込みに対してワッカは、
「ん?」とすっとぼけた表情を見せた。
「覚えとくよ、ルールー。」俺は頷いてみせた。ワッカには失礼だったけどな。


船室へ降りると、商人のような男と目があった。
「おっ!珍しい服だな。なんだ、随分汚れてやがる。こりゃ売り物には
ならねぇか。金持ってるようにも見えねぇし・・・もういいぞ、あっち行け。」
人をじろじろ観察した後に発した言葉がそれだったので、俺も対抗。
「何だよ、あんた」
「俺は23代目オオアカ屋。」
「オオアカ屋?」
「ちっ・・・知らねぇか。まぁ誰も知らないんだけどよ、
いつかオオアカ屋の名前をスピラ中に轟かせてやるさ。」
そう言い残した男は、別の船室へと去っていく。
俺は気を取り直し、また船首へ向かっていった。


船首には人集りが消えユウナのみになっていた。
ユウナはひとり景色を眺め、風に当たっている。
俺がそっと隣に行くと、ユウナから話し掛けられた。
「風、気持ちいいね。」
頷き合い、一緒に風を受ける。俺にはその時間がとても
居心地の良い時間に感じていた。
風が頬をくすぐり、会話が途切れたのにも関わらず
何だかとても可笑しくなってユウナと俺は笑いあっていた。

「・・・ブリッツの選手なんでしょ?ザナルカンドの。」
「それ、ワッカから聞いた?あいつ絶対信じてないくせに。」
「私は信じるよ。」続けて、ユウナは1歩下がり言い始める。
「ザナルカンドでは・・・夜でも光が溢れていて、大きなスタジアムがあって。
スタジアムではブリッツボールの試合が開かれて、いっつも超満員。」
それを聞いた俺は、
「何で知ってんのさ?!」と驚きを隠しきれなかった。
「ジェクトという人から聞いたの。父さんのガードしてくれた人。」
「・・・・・・・・・・」
俺は暫く黙って、溜め息混じりに呟いた。
「俺のオヤジも・・・ジェクトっていうんだ」
「・・・すごい!私達が出会えたのは、きっとエボンのたまものだね!」
「似てるけど別人だよ。」
「どうして?」
「オヤジ・・・・・死んだんだ。10年前ザナルカンドの海でね」
「そっか・・・・・・・」
「ある日、海へトレーニングに行ったまま帰って来なかった。
それっきり行方不明さ」
ユウナは思い出したようにハッと喋り出す。
「ジェクトさんは、その日にスピラに来たんだよ!」
「・・・・まさか」
「だって、私がジェクトさんに合ったのは10年と95日前!父さんが旅立った
日だから良く憶えてる。・・・・時期はピッタリでしょ?」
半信半疑で、俺は言った。
「でも、どうやってここに来たってんだよ。」

「キミは・・・・・ここに居るよ。」

納得、できた。証拠なんかないけど、俺は今ここに居る。
ここに居て、ユウナと話してる。それが事実で。



ドッと激しい揺れが船体を襲い、急激な波が船上に押し寄せてきた。
船体が傾き、皆立つことができずに屈んでいた。
ユウナが海へ引きずられてしまいそうになり、俺は必死にユウナの
手を握った。だけどこの状態では力が入らず、ユウナと手が離れてしまった。