キーリカの深い森を奥へ奥へと進んでいると、やがて目の前に高い石段が
立ちはだかった。そこには既にワッカとオーラカのメンバーが待機していた。
「ふふふ・・・この石段はな、由緒正しき石段なのだ。オハランド様が現役時代に
ここでトレーニングしたのだ!」ワッカは説明を言い終えてから、
「ふっふっふっふっふ・・・・・・・・・」
と、オーラカのメンバーと共に不敵な笑みを浮かべる。
その様子で、俺はピンときた。「・・・勝負ッスね。俺に勝てると思ってんの?」
と余裕っぷりを見せる。薄白い何百段とある石段を一通り見上げた俺。
ワッカはスターターを頼もうとユウナに一声かけた。
「ユウナ、頼む。」
俺達は一斉に石段の前に立ち、合図を待った。
「よぉい!」
その合図のあとにふと間があったと思うと、ユウナは笑いながら
先に石段を駆け上がっていた。
「あ?!ずっこい!!!」
ワッカが動揺して、ユウナに追いつこうと必死に昇っていった。
それに引き続きオーラカのメンバーも追いついていく。
唖然とした俺の傍らで、ルールーが呆れた声で言う。
「まったく、子供なんだから・・・・・」
その一部始終を見ていたキマリも呆れたように首を横に振っていた。
そして仕方なく、俺達も石段を昇っていった。

何十段か昇っていくと、オーラカのメンバーの1人が血相を変えて戻ってきた。
「まずいっす〜!!!」その掛け声に引き続きワッカも急かすような声で戻る。
「早く手伝え!『シンのコケラ』だ!!」

俺は急いで石段を駆け上がり、息を切れぎれながらも『シンのコケラ』と対峙する。
それは想像を越えた「イキモノ」だった。まず目に入ったのは不気味に光り輝く
銀色の甲羅。いかにも硬そうだ。それに周りには甲羅の触手のようなもの
が2本突き出ており、こっちは簡単に倒せそうな勢いだった。
まずルールーが先制攻撃。サンダーの魔法でうねうねと動く触手を打ち滅ぼした。
もう1本の方はキマリが槍を使って引き裂く。・・・俺の出る幕はなさそうだった。

残った銀色の本体はその不気味な甲羅をゆっくりと開き、中から新たな触手と
共に顔を披露した。虫を横に引っ張ったような顔。俺は他の皆に遅れをとるまいと
真っ先に攻撃を開始した。甲羅を開いた状態の『シンのコケラ』は俺でも
充分倒せそうだったので、剣を強く握りしめ、斜めに斬りつけた。

すると『シンのコケラ』は奇声を挙げ、おびただしい幻光虫を発し空中にと消えた。

「きっつぅ〜・・・・・」俺が思わず口にした言葉がそれだった。
「ははは・・・悪かった。ついお前を呼んじまった」
「ガードは大変ッスね。」
「ん〜・・お前バトルの才能もあるみたいだよな」
「やめてよー」ワッカの思い掛けぬ言動に、照れ隠しの反応を見せた。

俺達は石段を更に上へと昇った。そして俺は疑問を投げ掛ける。
「あのさ・・・・『シンのコケラ』って何?」
「『シン』の体から剥がされて置き去りにされた魔物のこと。」
「放っておくと『シン』が戻ってくる。さっさと退治しちまわないとな」
ルールーとワッカが応えた。

バトルの才能があるかもってワッカに言われて・・・・・・・
この時ユウナのガードになることを頭の隅で考え始めたような気がする。

そしてワッカが思いついたように言う。
「そういや・・・あれだ。ザナルカンドには魔物はいるのか?」
「・・あまりいない。たまに出ると大事件だな」
俺は答えながらハッと思い出した。ワッカがザナルカンドのことを信じていない、
ということを。それを思い出した俺はとっさに付け足した。
「ザナルカンドのことなんて信じてないくせにさ。」
俺の言葉を聞き流すようにワッカが続けて話す。
「・・・・考えたんだけどよ。『シン』にやられた人間は死ぬんじゃなくて・・・
『シン』の魔力で1000年前だか後だかの世界に運ばれるのかな、って。
んで!ある日突然ひょっこり帰ってきたりして・・・・・・・」
「いつもながら感心するわね。」
ワッカの話にルールーが水を差した。
「あぁ?」
「自分を騙す方法を次から次へと考えつくから、感心するって言ったの。
『シン』はチャップをどこにも運ばなかった。彼を押し潰してジョゼの海岸に
置き去りにした。あんたの弟は・・・二度と帰ってこない。」
そしてルールーは尚も続けた。
「それからね、これも言っておくわ。あんたがどんなに望んでも、誰もチャップの
代わりにはなれない。ジェクト様の代わりもどこにもいないし・・・・・勿論、
ブラスカ様の代わりだって何処にもいない。そんな考え方・・・悲しくなるだけよ」

散々、セリフを吐き捨てた後にルールーは石段の向こうへと去っていった。
その状況に堪えられなかったユウナがルールーを宥めようと、後を追う。
言い詰められたワッカは石段の踊り場に腰を下ろし、軽く拳を床へと付けた。
「俺だって、弟の代わりなんてできねぇんだよ・・・」
ワッカは力許ない言葉の後に、俺に向かって続けた。
「まぁ、色々あってな。気にすんな」
そして立ち上がってルールーの様に上へ昇っていく。

ワッカとルールーと、チャップってヤツの間に・・・そう。俺の知らない複雑な
事情があったんだなって・・・・それくらいは判った。
でも、そういう話題は苦手だった。


擦った揉んだの末、俺達はやっとポルト=キーリカ寺院に着いた。
寺院は不思議な雰囲気を醸し出していて、松明が燃やされ、キーリカの
人達が必死に祈っている様子が伝わってくるようだった。
俺達が寺院の中へいざ入ろうとすると、中からいかにもガラの悪そうな
男達が来た。ワッカはその男達に軽い挨拶をかける。
「お前達もオハランド様に必勝祈願か?」
するとリーダー格のような男が荒っぽく応える。
「祈願だぁ?我らルカ・ゴワーズは常勝だ!祈願など必要ない!」
「じゃあ、な〜んでここにいる?」
「もっと強いチームが現れるように祈ったのさ」
ワッカとオーラカのメンバーをあざ笑うかのように言った。そして、
「お前んとこは、今年も目標は『精一杯頑張る』ってやつか?
そんなチンケな心構えじゃ今年も初戦敗退確実だな」
その話にムカッきた俺は堂々と宣言。「今年は優勝狙いだ!!」
「お〜、狙え狙え。狙うだけなら誰でもできる。」
ルカ・ゴワーズは最後まで傲慢な態度で俺達をけなし、寺院を後にした。
「決勝で会おうぜ!」ワッカはその態度に引けをとらずに言った。

「あいつらだけには勝つぞ。」
俺は少し低い声で言った。ユウナがそれに気付き、声を掛ける。
「知ってるチームなの?」
「人を見下して馬鹿にして・・・・あの態度が俺のオヤジみたいだ。」
「ジェクトさん、優しくて楽しい人だったよ。」
「それは別人ッス。」
俺はユウナがオヤジをかばっているのにも関わらず、冷たく言い放った。
ユウナはその言動に寂しそうになっていた。

いなくなって、10年・・・・・・・・・・
それなのにオヤジのことを考えると、俺の気持ちはザワザワした。