キーリカ寺院の広間は、やはりビサイド寺院と同じような雰囲気だった。
銅像、柱、部屋に続く道・・・・・全てが。ただし、この寺院では盛んに松明が
燃やされている。俺が色々と観察していると、ワッカがオハランド様、いわゆる
ブリッツボールの神様的存在な人の銅像に向かって祈りを捧げていた。

すると、広間に2人組が入って来た。1人は派手な格好をした女、
もう1人はごつい感じの大男。女はユウナに近づいてきた。
「あなたも召喚士?」
その言葉にすぐに応えるユウナ。
「ビサイド島より参りました、ユウナと申します」
「ドナよ。あなたが大召喚士ブラスカ様の娘ね・・・
血統書付きの召喚士様でしょう?」少し感じの悪い自己紹介をしたドナは、
ユウナの周りにいる俺達を見渡し、続けた。
「あらあらあらあら・・・・・この人達全員あなたのガード?
ぞろぞろとみっともないわね。ブラスカ様のガードは2人きりだったはずよ。
ガードは量より質。数に頼るなんて、浅はかね」
ドナは言い終えると、一緒にいる大男に目をやった。
「だから私のガードは1人だけ。ねぇ?バルテロ。」
ユウナはとって返すように反論した。
「ガードの人数は信頼できる人の数と同じです。
・・・自分の命を預けても安心だと思える人の数です!
だから、私にはこんなにガードが居てくれて幸せです。ええ、父よりも
幸せだと思っています!勿論あなたの考え方だって間違いではないと思います。
だから・・・・・ドナ先輩、私達のことは放っておいて下さい。」
「・・・・・・・・勝手にしなさいよっ!行きましょバルテロっ」
ドナとバルテロは立ち去り、ユウナの一息が流れた。「ふぅ・・・」
力強く、決して先輩の召喚士に遠慮している訳でもない、ユウナの言葉。
ガードとは『召喚士が命を預けて安心だと思える人』。
俺、そういう人になれたのかな・・・・・・?


試練の間に続く昇段床の前に、皆が集合した。
「祈り子様がこの下にいらっしゃる。さ、行こうぜ!」
「・・・・イノリゴ?」ワッカの仕切り声に、俺が疑問をぶつけた。
「その前に試練の間よ。準備はいいわね?キマリ、ワッカ。」
「宜しくお願いします。」
疑問を投げたのにも関わらず、ルールーとユウナは会話を進めた。
何が何だか判らなかったが、取り敢えず皆と一緒に昇段床に乗る。
すると、キマリに突き飛ばされた。「どうして!」
「ガードじゃないから。」ルールーがきっぱりと言い放った。
「なるべく早く戻るから、待っててね」
「また1日かかったりするんじゃないの〜?」


ユウナ達が昇段床を降りていくと、後ろからドナ達がやって来た。
「・・・・・ユウナは?あなたは何をしているわけ?」
「ガードじゃないからな、俺。入っちゃ駄目なんだろ?」
ドナの事情聴取のような話に面倒くさそうに俺は応えた。
「ふ〜ん・・・ガードじゃないんだ。」
ドナが何かを悟ったように言うと、バルテロに合図をした。
するとバルテロは俺の体を軽々と持ち上げて・・・・・・・・
「な、なんだよ!放せっつーの!!!」
バルテロはユウナ達を今しがた送ってきた、昇段床の上に乱暴に俺を下ろした。
「何すんだよ!!」
「仕返し。」
「・・・・はぁ?」
俺がドナ達を問いつめようとした途端、昇段床が下降を始めた。

「これ、きっと、まずいッス」
俺は独り言を言い、そしてついに下についてしまった。
しばらく昇段床の上に立ち、また上がらないかと待ってみたものの、
なかなか上がってくれなかった。他に道はないかと探すと、もう皆のいる
試練の間しかなかった。そこへの道は、固く閉ざされた扉だった。
「ガード以外は立入禁止なんだよなぁ・・・ここまで来ちゃったら、おんなじか?」
ひんやりした空気の中、周りのいやに多い松明だけが
俺の頬を照らしている中で、俺はその扉を開いた。

「おいおいおい!」ワッカが、入ってきた俺を真っ先に咎めた。
「ドナと筋肉男が無理矢理さぁ・・・・・」
「理由はどうあれ、罰を受けるのはユウナよ。」
俺の言い訳を無視するかのように、ルールーが話す。
「罰って・・・どんな?」
「寺院立入禁止もあり得る。」

ユウナを待つ間、俺は1人で考え事をしていた。そして弾き出した疑問を、
いっきに皆にぶちまけた。取り敢えず、気になっていたユウナが入っている
らしい扉の奥のことを聞いてみることにしたのだ。
「この中、何があるんだ?」
「祈り子様がいらっしゃる。」
「ああ、それそれ。さっきも言ってたよな。」
「『シン』を倒すために進んで命を捧げた人達よ。エボンの技で、
生きながらにして魂を肉体から取り出されて・・・・・」
「あ?」ルールーの説明が今ひとつ判らない俺は、曖昧な返事をした。
「祈り子像に封じられて永遠の時を生きる・・・祈り子様の魂は、
召喚士の祈りに招かれて姿を現す。それが・・・・・・・・召喚獣よ」
「この部屋の中に?ユ、ユウナは中で何をしてるんだ?」
俺の相次ぐ質問に、今度はワッカが答えた。
「必死に祈ってるんだ。『シン』を倒す力を貸してくれ、ってな。」


やがて扉が開かれ、ユウナが中から出てきた。とても疲れている様子で、
ルールーやキマリ、ワッカに心配されている姿を俺は黙って見ていた。
この時、なんで声を掛けなかったかっていうと・・・・・・・・・

あの時に皆に黙っていたことがあるんだ。
あそこで聞こえていた歌は、子供の頃から知っている歌だった。
ザナルカンドとスピラが、どこかで繋がっている証拠。・・・そう思った。

それに気付いたからなのかな、帰りたい気持ちが急に強くなってさ。
胸につまったみたいで・・・・・・何にも言えなくなった。


寺院から外へ出ると、ユウナを出迎える人達で溢れかえっていた。
ユウナはそれを笑顔で迎えてる。俺にはその光景が、ザナルカンドでの
自分の姿に重なって・・・複雑だった。
青空なのに、仲間がいるのに、気持ちが晴れなくて・・・
抑えていたはずのザナルカンドへの気持ちが、膨らんで・・・・・はじけた。
顔がカーッと熱くなってさ。

その微妙な気持ちの変化に気付いてくれたユウナが、俺に言った。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃ・・・・・・・・・・ないかも」
「どう、したい?」
「・・・・・・叫びたいかも。」
ユウナは俺の突拍子な言動に、微笑を浮かべて応えた。そんで、俺は・・・
「わーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


この気持ちをどうしたらいいか判らずに、とにかくがむしゃらに叫んだ。
叫ぶことで、どうしようもない気持ちを吐き出せると思ってたから。