ポルト=キーリカは村全体が水上に出来ている。桟橋のような道に
船が止まり、俺はユウナの膝から起きあがって辺りを見回す。
俺以外の皆はすぐに船を下りた。その中でも早かったのはユウナ。
いち早く村の状況を確認しようと、村人に話し掛ける。
「わたくし、召喚士のユウナと申します。ビサイド寺院から参りました」
「あっ、召喚士様!」
村人がユウナが召喚士だということを知ると、態度が急変した。
「他に召喚士が居なければ、わたくしに異界送りをさせて下さい。」
「おお、有難い・・・・・!」
「・・・もう、身内が魔物になるのは覚悟しておりました・・・・」
「どちらへ行けばいいですか?」
村人に案内され、ユウナはその場所へと向かった。

「俺達は村の様子を見てくる。人手が要るだろうからな。」
ワッカはそう言って村全体の壊れた道、家を見回した後に、
ビサイド・オーラカのメンバーの元へ向かった。


俺はユウナが何をするのか判らなかったので、村人達が
去っていった方向へと走っていった。

するとそこには、俺の見たこともない儀式のような・・・
そんな雰囲気のようだった。何十人もの棺が水中に沈められ、
桟橋の上には泣きじゃくる人々。松明も用意されていて、
とてもじゃないけど、普通の状態とは言えなかった。
『そんな雰囲気』の中、ユウナは寂しそうに海面を見つめる。
夕焼けで染まった、まるで血のような真っ赤な海面を。
俺は視線をルールーの方へと向けた。そしてさっきから
疑問に思っていたことを単刀直入に口にする。
「・・・・・『異界送り』って、何?何が始まるのさ?」
「あんた、忘れたんじゃなくて本当に知らないって感じね。」
溜め息をつかれてしまい、・・・それでもルールーは俺に説明を始めた。
「死者は・・・・迷うのよ。」

「死んでしまったのが悲しすぎて、自分の死を認めようとしない。
もっと生きていたいと願いながら、まだ生きている人間を羨む。
・・・死者は生きている人間が羨ましい。その気持ちはやがて
妬みや憎しみに変わる。そういう死者の心がスピラに留まると、
命を憎む魔物となって人を襲う・・・・・・・」

ルールーは一通り話し終わると、俺に同意を求めるように言った。
「そんなの、悲しいでしょう?だから『異界送り』をして、
迷える死者を眠らせてあげるのよ。」
「それも召喚士の仕事、なのか?」
俺の質問にルールーは静かに頷く。

そんな話をしているうちにユウナは村人との話を終え、ロッドを持ち、
海面へと歩き出した。ユウナの足は海面に触れているのに、
ユウナは水の中に沈まない。そして少し躊躇うかのように
『異界送り』の踊りを始めた。



不思議な光景、だった。周りの松明の明かりが赤色から蒼色に変わり、
棺の中からは死者の魂のようなものが出てきて、ユウナの周りを
ふよふよと取り囲む。ユウナが踊り続けていると足元の水が浮かび上がり、
生きているかのようにユウナを高く、高く上げている。
魂は空高く飛び、残された村人達の中で泣き伏せてしまう人も居た。


『異界送り』が終わり、ユウナが陸へと上がる。
「召喚士って・・・・・大変だな。」
俺が口にした言葉に、ルールーが応える。
「ユウナはそれを選んだのよ。何もかも、覚悟の上のこと。
私達に出来るのはユウナを見守ることだけよ。
・・・・・・・最後の時までね」
「最後の時?最後って・・・何?」

すると村人が一斉に俺の方を向いた。タイミングが悪かったらしい。
その状況を見て、また溜め息混じりにルールーが言った。
「『シン』を倒す時、まで。」

話をしているとユウナがこちらへ向かってくる。
「私、上手くできたかな」そのユウナの質問にルールーが答えた。
「初めてにしては上出来。・・・きっと皆、異界に行けたわ。
でも、次は泣かないようにね。」
と、ルールーはユウナの頭を撫でて話す。


次なんて、なければいい・・・・・・
『シン』に殺された人達・・・・・・
『異界送り』をするユウナ・・・
それを見守る人達・・・・・

不思議で、少し恐ろしい儀式。・・・・・もう見たくないと思った。