「さーて、次はいよいよルカだぜ!着いたらすぐに試合が始まる。
船の中でゆっくり休んでおけよ!」キーリカの村へ戻ってきた俺達は、
ワッカの仕切りで桟橋から連絡船へ乗り込んだ。
俺が船の中でしばらく仮眠をとっていると、あたりはもうすっかり夜に
なっていた。そこで表に出てみることにした。
外へ出ると一面が星に包まれ、吸い込まれそうな夜空。
見上げていると立ち眩みを覚えそうなその夜空から目線をずらし、
船尾に向かってユウナを探し始めた。
ユウナを見つけたと思うと、周りには沢山の人集りができていた。
その人集りも、良く見るとキーリカ寺院で文句をつけてきたあの
ルカ・ゴワーズのメンバー達だ。気になったので声を掛けてみる。
「な〜に話してんだ?」
するとすぐに感じの悪い返答が返ってきた。
「馴れ馴れしい野郎だな。」
「ああ、こいつあれですよ。キーリカで会ったじゃないですか」
「あ?」
「ほら、ビサイド・オーラカのヤツで優勝するとかほざいてた。」
「ああ・・・・・あのオメデタイ奴か」
その会話にユウナが水を差す。「・・・・ひどい言い方。」
「そりゃ仕方ない。突然オーラカが強くなるはずないもんなぁ」
ムッときた俺が即座に言い返す。
「俺が入ったから強くなるんだよ!」
「そう、強くなるんです!ザナルカンドのチームのエースだった
人ですからね!」ユウナも同意してくれた。
「ハ!そりゃまたすげぇ場所からいらしたもんだ。」
「遺跡にもチームがあるとは知らなかったよな」
ニヤニヤと冷やかしを続けるゴワーズのメンバーに対して、
ユウナは更に対抗し続けた。
「遺跡じゃなくて、ちゃんとした大きな都市があるんです!」
ゴワーズのメンバーは怪訝そうな顔を浮かべて、ユウナを見た。
ユウナは悪くない。なのにフォローをする俺。
もうこれ以上ユウナが責められるのを見たくないからだった。
「あのさ・・・・・・俺、『シン』の毒気に・・・・・」
「あるんだよ、本当に。」
フォローも虚しく、ユウナは力強く言った。それにゴワーズのメンバーは、
「召喚士様ってのは訳が判らねぇや」
と、呆れた様子で船室に入って行ってしまった。
俺はユウナがどうしてそこまで言ったのか、聞いてみた。
「どしたの?なんかムキになってなかった?」
ユウナは緩やかな黒い水平線を見つめ、言った。
「あの人達失礼だし、それに・・・・・・・・キミのザナルカンドは、
きっとどこかにあると思う。」目がまだ緊張している。
「どうして?」
「ジェクトさんに聞いてから、ずっと憧れてたんだ。いつか行きたいなぁって
思ってた。・・・・・・ね、帰れるといいね。」
「うん」
その時のユウナの言葉が、どれ程嬉しく感じたか。
ザナルカンドのことを本当に信じてくれてて、それは俺も
信じてくれてるようなもので・・・・嬉しかった。
俺んち来る?とか、言いたかった。
そう言えない理由を考えると・・・・・・・・悲しくなった。
少し気分を変えようと、甲板の階段を上る途中でルールーと
ワッカの会話が耳に入ってきた。
「何とか言いなさい。無責任だと思うでしょ」
「大丈夫だって。ルカにあいつの知り合いいるって。」
「いなかったら?」
「そんときゃ、どっかのチームに入るとか・・・とにかく、
ビサイドにいるよっか何倍もマシだろ?」
「要するに・・・・・後は勝手に、ってこと?」
「・・・・どーすれってんだよ」
「ユウナが、ガードにしたがってる。」
「ああ・・・・・それそれ。面倒なことになったよなぁ。」
「原因作ったのは誰?」
「俺だってのかよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・俺だよなぁ。な、どうしてユウナはあいつをガードにしたがるんだ?」
「ジェクト様の息子だからよ」
「あ、なるほどねぇ。でもそれホントなのか?ホントにジェクト様の息子なのか?」
「真実はともかく、ユウナはそう信じてるわね。」
「なるほど。」
「なるほどなるほどって・・・・・・・・あんた、ちゃんと考えてるの?」
「考えてっけど・・・・・結局あいつが決めることだ。
あいつとユウナが決めることだろ?」
「まともなこと言うじゃない。」
「へへん!」
「・・・・・どうなるのが、一番いいのかしら・・・・・あんたから、勧めてみたら?」
「何を?」
「ユウナのガードになること。」
「なーんで俺が?」
「ユウナからは言えないでしょ」
「何で?」
「父親が嫌いで、父親の影を重ねられるのも嫌。そんなこと言ってる
人に言えると思う?キミはジェクト様の息子だから、
わたしのガードになって欲しい、って。」
「・・・・・・・気にしすぎじゃないかぁ?」
「・・・・・・・・・・・」
「判ったよ。大会終わって落ち着いたら、俺から話してみる」
「無理強いしちゃダメよ。」
「判ってるって。決めるのはあいつだ。・・・あいつ、父親が嫌いなのか?」
「そうみたい。ユウナから聞いたわ」
「オヤジが嫌いかぁ。そりゃ贅沢もんだよな。俺、両親のことなんて
憶えちゃいないもんなぁ。好きも嫌いもないもんなぁ・・・・」
「私は・・・5歳だったから、少しは憶えてる」
「くそっ!『シン』がなんでもかんでも取っていきやがる・・・・・・」
会話を一通り聞いた俺は、また気分を変えようと今度は船首に向かった。
今夜は俺にとっての衝撃的なことがいっきに起こりそうな気がして、
気持ちは上々ではなかった。そんな時、船首に1つだけ、ブリッツボールが
落ちていた。オーラカの選手が忘れたのだろうか、そんなことをぼんやりと
考えながら、ワッカとルールーの会話からオヤジのことを思い出していた。
同時に自分の幼かった頃の記憶を探っていった。
幼い自分はブリッツボールの練習をしている。
ボールを真剣に見つめ、猛ダッシュで駆け寄り、そして空振り。
ボールの目の前で転んだ俺に、オヤジが近づいてきた。
「これはこれは、ジェクトさんちのお坊ちゃまではありませんか。
いつもはタダじゃあ見せないんですけどねぇ。
そのシュートは、こうやるんですよ!!」
壁に向かって数回かボールをぶつけ、思いっきり上に打ち上げ、
スピンをかけた高いジャンプでシュートを決めた。
「お前にゃできねぇよ。でもな、心配することはねぇ。
できないのはお前だけじゃない」
オヤジの言葉が頭の中をぐるぐるまとわりつき、離れなかった。
何度振り払っても消えずに、むしゃくしゃした気持ちが残る。
その気持ちを振り切ろうと、あの時オヤジがやってみせた
ジェクトシュートにチャレンジしてみることにした。
助走をつけ、ボールを高く、あの星空まで届くようにあげ、
スピンをかけたジャンプ。そしてボールが目の前に来たら、蹴る。
「あ・・・・・・」
成功、した。自分で自分に驚いた、けど、それ以上に満足してた。
「なーにが特別だってんだ。・・・・・ん?」
気付くと周りにはオーラカのメンバーが口をあんぐりと開け、見ていた。
「すげぇ!何て技だ、それ?」
「名前なんかないし、練習すれば誰にでもできる。」
「もう1回やってみてくんねぇか?」
期待の目をしたワッカの後ろの方から、ユウナがひょっこり顔を見せた。
「ジェクトシュートだよね、さっきの。」
「何で知ってるッスか?」
「子供の頃、ジェクトさんが見せてくれたんだ。正式な名前は、
ジェクト様シュート3号・・・・・だよね?」
ユウナはくすくすっと、子供っぽく笑ってみせた。
「馬鹿な名前だよな。それにさ、本当は1号も2号もないんだぞ」
俺は言いながら、船べりに腰掛けた。
「3号って言っとけば、1号も2号もあるって客は期待する。
そういう客は今夜こそ観れるかもって、毎晩スタジアムに来るって
言ってた。でさ、ホントにそうなって・・・・すっごく腹が立ったな。」
一息ついて、俺は聞いた。
「オヤジ・・・・・・・生きてるのか?」
「判らない。でもね、ジェクトさんは父さんのガードだったから・・・」
「こっちでも、有名人?」
「うん。だからもし亡くなったとしたら、その話は伝わってくると思うんだ。」
「ふーん。」
「ね、逢えたら・・・・・どうする?」
「10年前に死んだと思ってたヤツだぞ?今さらなぁ・・・・・そうだな、
何より先にぶん殴る。あいつのせいで俺も母さんも苦労したし・・・
あいつが有名人なせいで俺はいつでも・・・・ユウナなら、判るだろ?」
俺は続けた。
「ユウナのオヤジさんも有名人なんだろ?
この世界の人はみんな知ってるよな。」
「うん・・・・」
「イヤじゃないか?」
「時々、父さんの名を重たく感じることはあるけど・・・・・・・」
「だろ?」
「それよりも、スピラ中から慕われる父さんを誇りに思う、かな。」
「ま、ユウナのオヤジさんと俺のオヤジさんは違うってことで。」
「ジェクトさん、可哀想。」
「お、俺は〜?」
「もっと可哀想だね。」
ユウナはさっきとは違く、太陽みたいに明るく笑った。
すると急に俺の脇ッ腹にボールが当たり、何事かと見回した。
「さっきの、もう1回やってくれ〜!」
犯人はワッカだった。でも怒る気はしなかった。
むしろ必要とされてるのが嬉しかったから。
「ああ!」
明るく返事をして、ユウナとの話を終え、ワッカのもとへ向かった。
オヤジがルカに来るとは思えなかった。
あいつ、他人の活躍を見るのが嫌いだったからさ。
だけど必ず何かが起きる。そんな胸騒ぎがして眠れなかった。
大会で活躍するッス!なんて言ったのは、
不安を紛らわすカラ元気ってやつでさ。